日本人同士の会話で、とにかくよく出てくる「よろしくお願いします」というフレーズ。ビジネスシーンからご近所付き合いまで広く使われ、日本でこのフレーズを聞かない日はないと言っても過言ではないでしょう。
ですが、このような日本語のフレーズを「英語でどう言うか?」と考えるのは少しナンセンス。
そもそも、日本語の「よろしくお願いします」はさまざまなシーンで使うため、私たちは何を意味したいかを深く意識していません。そんなフレーズの英訳を頭をひねって考えるのは時間が掛かりますから、それなら、最初から「こんなとき英語でどう言うか?」と考える方が圧倒的に早いです。
英語で 「よろしくお願いします」 は何十パターンもある
日本語の「よろしくお願いします」を厳密に英訳すると、英訳パターンは二十や三十にも及びます。そのうち数パターンを紹介している記事などもありますが、本質を理解せずにこういった記事を参考にしてしまうと、変な英語を使ってしまう可能性があります。
メールの返信などであれば時間を掛けて確認ができるので「何とかなる」かもしれませんが、会話の流れで「よろしくお願いします」と言いたいとき、日本語から英訳を考えている暇などありません!
まずは実際に、ビジネスでの初対面で「よろしくお願いします」と英語で言うシーンを考えてみましょう。
ビジネスの初対面シーンで 「よろしくお願いします」 と英語で言いたいとき
ビジネスの初対面シーンで「よろしくお願いします」と言うときは、丁寧で定型的な挨拶として様々な意味を含んでいます。「はじめまして」や「以後お見知り置きを」といった意味に加えて「これから頑張ります」や「期待しています」など、相手との関係やシーンによって実際のニュアンスは何パターンにもなります。また「ただ単に会話の結び」や「ありがとうございます」の意味になることもあります。
- はじめまして
- 以後お見知り置きを
- ◯◯の△△と申します
- 本日入社しました
- 今日から配属になりました … etc.
- これから頑張ります
- □□のことは任せてください
- また色々と聞くと思います
- 何から始めたら良いですか? … etc.
- 期待しています
- ただ単に会話の結び (特に意味なし)
- ありがとうございます … etc.
以下の例のような日本語の会話を英訳しようとすると、その複雑さがよく分かるはずです。話し手の立ち場やシーンが変わると、それだけで「よろしくお願いします」のニュアンスは大きく変わります。
――「はじめまして。本日からお世話になります、藤川絵梨花と申します。よろしくお願いします」
――「待っていましたよ。こちらこそ、よろしくお願いします。早速オフィスを紹介しますね」
――「はい! よろしくお願いします」
ここで1つ注意すべきことは、英語のビジネスマナーと日本のビジネスマナーは随分と違うということです。
職場への初出勤でどんな英語を使うかを調べるなら “First day at work” や “First day of job” などと英語で検索し、そこで使われている英語フレーズを参考にすることをおすすめします(以下動画は一例です)。
上記の例は社内での挨拶になりますが、取引先で初対面の相手に「よろしくお願いします」という場合は、「お時間を取っていただき、ありがとうございます」のように、また違った解釈で英訳する必要があります。
つまり、あらゆるパターンの「よろしくお願いしますの英訳」を覚えるのではなく、様々なシーンの英語でのあいさつに慣れておくことが重要になります。
ビジネスシーンで英語を使うのに「よろしくお願いいたします」と言う機会がありそうな方は、以下のような動画をいくつか繰り返し見ておく方が、よっぽど良い準備ができるでしょう。
日常生活の初対面シーンで 「よろしくお願いします」 と英語で言いたいとき
今度は、日常生活の初対面シーンで使う「よろしくお願いします」の英語を考えてみましょう。本質的に何を伝えたいのかということを意識しながら、まずは日本語の会話文を読んでみてください。
――「はじめまして。隣りに引っ越してきた、テイラーと申します。よろしくお願いします」
――「あら、こちらこそよろしくお願いします。スミスです。ご丁寧にありがとうございます」
先ほどのビジネスシーンと同じく「よろしくお願いします」を初対面で使っていますが、この場合は「頑張ります」や「期待しています」のニュアンスは皆無ですね。
一方で「以後お見知り置きを」という意味になる可能性は共通しており、「これから挨拶してくださいね」や「ご近所同士なので仲良くしてください」など、暗黙的に「これで顔見知りですね!」といったニュアンスになっていると思います。また、ただ単に会話の結びであり英語に訳す必要がない場合もやはり存在します。
- はじめまして
- 以後お見知り置きを
- これから挨拶してくださいね
- ご近所同士なので仲良くしてください
- 気軽に話しかけてくださいね
- これで顔見知りですね! … etc.
- ただ単に会話の結び (特に意味なし)
- ありがとうございます … etc.
こういう場面の「よろしくお願いします」を英語でどういうか知りたい場合も、やはり “How to talk to new neighbors” などと英語で検索し、そこで見つかる英語フレーズを参考にすることをおすすめします(以下の動画もその一例です)。
初対面でないシーンで 「よろしくお願いします 」 と英語で言いたいとき
日本語での「よろしくお願いします」の利用シーンは、初対面のとき以外にもたくさんあります。
はじめに忘れてはいけないのが、メールの締め言葉として定型的に使われている「よろしくお願いします」の存在です。これは英語で “Business Email conclusion examples” などと検索するのが良いでしょう。
さらに、何かをお願いするシーンで「お任せします」「任せました」の意味として使われたり、何か具体的なお願いではなく「お世話になります」「ご贔屓に」の意味として使われたり、ただ単に「~してください」の意味のみで使われたりすることだってあります。
- お任せします / 任せました
- 今日の議事録、よろしくお願いします
- では、あとのことはよろしくお願いします
- 娘のことをよろしくお願いします
- お世話になります / ご贔屓に
- 今年もまた、よろしくお願いします
- 承知しました、今後ともよろしくお願いします
- ~してください
- 有給休暇の件、ご検討よろしくお願いします
- いつもの場所に集合よろしくお願いします
日本語の「よろしくお願いします」には、これという決まった英訳がないということを、お分かりいただけたでしょうか? そもそも、「よろしくお願いします」のフレーズを言葉そのまま「英語」にしようとするのは無理があります。色々なシーンで 「定番の英会話パターン」 を脳に定着させて慣れる方法をおすすめします。
英語のまま考える 「英語脳」 とは?
英語脳の人は、いったん英語で会話が始まれば「英語で話し、英語で聞き取り、英語で考え、英語で返す」のサイクルから抜け出すことはありません。日本語から英語に変換して考える時間はほぼなく、会話の流れから頭に浮かんだことを英語でそのまま口に出して話しているのです。
今回、日本人同士がよく使う「よろしくお願いします」を取り上げた理由は、このようなフレーズを「英語でどう言うのだろう?」と考えてしまっている人は、まだ「英語脳」ができていないからです。
そして、英語を自然なスピードで処理するためには、この「英語脳」が必要不可欠となります。
どうすれば英語脳を鍛えられるか
スラスラと英語が口から出てくる「英語脳」を鍛えるには、さまざまなシーンの英会話パターンに慣れていく必要があります。すぐに「この日本語は、英語でどういうんだろう?」と考えてしまう癖のある方は、今後、次の3つの方法で「英語との触れ方」を変えていくことをおすすめします。
方法① 英語で流れをシミュレーションする
先の解説でもお伝えしましたが、ビジネスシーンでの初対面の英語も、ご近所付き合いでの初対面の英語も、そのシーンについて英語で検索することで “Conversation dialogue” を見つけることができました。
あとはその英語ダイアログを実際のシーンと想定して、発音を真似ながら繰り返し発声練習するだけです。
この方法を使えば、自分が英語を使うことを想定したシーンでの英会話の「流れ全体」を、最初から最後まで英語でシミュレーション練習することができ、英語脳を鍛える訓練として効果絶大です。英語では単語よりもフレーズの方が重要とよく言われますが「会話パターン全体を把握すること」はもっと重要です。
例えば、グループディスカッションや趣味のサークルで自己紹介をするときの「よろしくお願いします」なら “How to introduce yourself to a group” と検索でき、初めて合う人と打ち解けて連絡先を交換するときの「よろしくお願いします」なら “How to get acquainted with a stranger” などで検索できます。
方法② 英会話のロールプレイで訓練する
知り合いに日本語に切り替えずに英語だけで話せる人がいて、英会話のロールプレイをお願いできる場合は、シミュレーション練習の次のステップとして「ロールプレイ」をしてみましょう。英語ネイティブの人である必要は全くありません。とにかく、英語だけですべて会話を成立させることが重要です。
例えば、会社での自己紹介を練習したいのであれば、ロールプレイの相手をしてくれる人に「新しい上司」や「新しい同僚」など、何度かロールプレイをして色々な役になりきってもらいます。繰り返し練習をすると、英語での対応方法を知っているシーンが段々と増えて「英語脳」が鍛えられます。
オンライン英会話を利用している方なら、同じシーンの練習を自信がつくまで何人かの英会話講師と繰り返すこともできますね。もしアドリブをする余裕が生まれてきたら、だいぶ「英語脳」になってきていますよ!
方法③ 実際に英語を使う機会を増やす
さまざまな英会話のシミュレーションやロールプレイを「最初から最後まで英語脳のまま処理できる」ようになったら、ぜひ自信を持って「実際に英語を使う機会」を増やしましょう。
いきなり「英語力を活かせる仕事」を見つけることは簡単ではありませんが、英会話カフェなどのイベントに参加したり、ランゲージエクスチェンジやミートアップなどで外国人の友人を作ったり、ボランティア活動に英語を役立ててみたり、英語との接点を増やしていくうちに仕事でのチャンスも増えてきます。
英語で 「よろしくお願いします」 と言う機会をどんどん増やそう!
以上、いかがでしたか? 日本語の「よろしくお願いします」を決まった英語フレーズに訳そうとすることは少しナンセンスです。それは、使われるシーン、使う人の立場などによってフレーズの役割が違うからです。
英会話や英語メールのやり取りの中で、その時々にあった 「よろしくお願いします」 にあたる英語フレーズを身につけていきましょう。それらのフレーズを使う機会を増やしていくうちに、英語脳になっていきます。
この記事を参考にしていただければ「よろしくお願いしますって、英語でどう言えば良いんだろう?」などと考えてしまうことはなくなっていくはずです。話していて分からない英語の言葉が出てくることはあっても、それは質問をすればいいだけですから、もう日本語で話すときと同じように対処できます。
皆さんも「英語脳」を鍛えて、日本語での会話と同じように英会話を楽しめるようになりましょう!