いま、日本で賛否両論ある「英語イマージョン教育」。子どもが小さい頃は手軽に始めさせられますし、早く始めれば始めるほど英語が身に付きますが、小学校や中学校で英語力の壁にぶつかったり、親子とも英語との付き合いが長くなり大変だったり、問題点の方については意外と知られていません。
日本に限ったことではありませんが、英語のイマージョン教育には「長期的な計画」が必要なのです。今回の記事では、英語イマージョン教育で注意したいことや、良い決定をするための方法についてお伝えします。
英語イマージョン教育の問題点と不安
小さな頃から始める英語イマージョン教育では、子どもの英語力は早くにある程度のレベルにまで達します。早期英語教育の波は確実に押し寄せており、その現場の状況は前回の記事でもお話したとおりです。
ですが、その基礎を利用し、年齢に合った話題と学習に沿ったより複雑な英語でアップデートし続ける必要があります。イマージョン教育を実施されるご両親の多くは、ここに問題点や不安を感じられるようです。特にご両親が高度な英語力を有していない場合、この問題は顕著になります。
例えば、インターナショナルプリスクールの卒園を機に英語をやめる場合、その子の英語力はあっという間にゼロに近くなります。例えるなら、引っ越す前の地方の方言が、新しい土地の方言に完全に入れ替わっていくのと同じです。そのため、ご両親は子どもの成長段階に合った英語教育を受け続けさせる必要があります。
ここで上げられる「英語イマージョン教育の問題点」および「ご両親が不安に感じる点」は、
- イマージョン教育の費用が高い
- 子ども自身の英語への高いモチベーションが必要
- 家庭でのサポートをどこまで継続できるか
- 小学校から後の進路をどうするか
になります。
中途半端なイマージョン教育に注意
子どもに使える教育費や習い事の費用には限りがあるはずです。中途半端なイマージョン教育では期待値ほど効果を生まない可能性がありますので、今まさにイマージョン教育を検討されている親御さんは、家庭状況や将来の支出などを考えながら、工面できる費用に見合った範囲で導入されることをおすすめします。
最も注意が必要なのは、小学校から先に待ち構えている問題でしょう。
卒園後に日本語の小学校へ行かせる場合、その子には「なぜ自分だけ違う言葉を話さなきゃいけないのか」といった戸惑いと不安の気持ちが必ず生まれます。また、日本語に接する時間が圧倒的に長くなっていくため、一般的に『小1の崖』と言われるほど英語力も急落してしまいます。
ですから、園に預けていれば良かったプリスクール時代とは違い、家庭で英語に触れさせる時間を作るというサポートが欠かせません。一方で、日本語での教育にもついていかせないといけませんから大変です。ここで下手をすると、子ども自身が英語を続けることに意義を感じなくなってしまうかもしれません。
イマージョン教育のデメリット
小学校から先の家庭でのサポートが上手くできたとしても、イマージョン教育に全くデメリットがないというわけではありません。具体的なデメリットとしては、以下のような内容が挙げられます。
1.子どもの正確な英語力を把握しづらい
子どもが親の英語力を超えていたり、家ではあまり話さなかったりすると、正確な英語力や対策を知ることはより難しくなります。信頼できる先生に相談したり、客観的に英語力を測るテストを受けるのも一案です。
2.義務教育修了証を貰えないことがある
英語で学校生活を送る学校に進学させる場合、日本の小学校と中学校を卒業したという証明が貰えないことがありますので、日本で暮らし続ける場合には注意が必要です。
3.進路の選択が難しい
前述のように、親が工面できる費用によって子どもの選択の幅は狭まります。どの言語や文化の教育を受けてどんな社会に出ていくのかを決める際は、慎重にならなければなりません。長期の進路プランを立てることは必須ですし、親と子どもの状況に合わせて定期的に進路プランを見直すことも必要でしょう。
4.母国語が中途半端になる懸念がある
英語イマージョン教育ではよく「母国語も確立していないのに」「ごちゃまぜになって結局はどちらの言語も中途半端で終わる」などと言われます。本当にそうならないためには、家で使う言語を決め、必要な言語力は親が家できっちり教え込むという覚悟で取り組む必要があります。
イマージョン教育を受けさせる前に
ところで、英語のイマージョン教育はいつまで続ければいいのでしょうか? 小さい頃にイマージョン教育を始めた場合は、最低でも「臨界期」まで続けたいところです。また親として何ができるかや、何をすべきかといったことについても、あらかじめしっかり確認しておきましょう。
言語の臨界期をひとつの目安に
臨界期の定義は様々ですが、筆者は最低でも中学校1年生くらいまで続けることをおすすめします。幼少期に耳から学んだ英語を自力で強化していけるようになる年齢がそれくらいだからです。この頃になって役に立つのが「幼い頃からメインの言語をどちらかに決めしっかり言語能力をつけておく」ということです。
子ども自身にやる気を出させる
子どもの関心事は移り変わります。子どもが英語を話すことを恥ずかしいと思い始めたり、日本語で生活しているのに英語で学ぶことへのモチベーションが尽きたりしたときは、起爆剤が必要です。ホームステイなどで同年代の子と交流させたり、条件のより合う他の教室に移ったり、海外旅行へ行ったりするのは有効です。
また最近では、Kids Meetups に参加させるのも良いでしょう。幼いうちからグローバルな交流を持っていると、英語や外国に対する姿勢も自ずと変わるはずです。また親同士の交流で情報交換もできますよ!
家庭で必要なサポートについて
最終的にはそれなりに何とかしてくれる日本の学校やプリスクールとは違い、インターナショナルスクールの小学校1年生以降は、親が子の教育に二人三脚で取り組み、一緒に苦労する必要があります。家では母国語でたくさん会話することはもちろん、一緒に読書をしたり、読み書きを身に付けさせたり、普通の子育てよりも多くの時間が必要となります。
教育への責任はより重くなる
最後に、日本語の学校では日本の文化やルール、モラルまで教えて貰えますが、そういう意味での「教育」を学校に丸投げすることもできなくなります。インターナショナルスクールでは教えてくれない「日本人としてのアイデンティティー」や「普通の日本人が持つ一般常識」も親自身が教え込む義務があるので、親の負担はより大きくなるといえるでしょう。
子どもと家庭に合った道こそが解決策
人と違う道を選ぶということには周囲からの反対や苦労がつきものです。また生まれ持った頭と気質、能力によっては、親が子に歩ませたい道が本人に向いていないこともあります。「英語は第二言語として習う」のか「英語をメイン言語に決める」のか、また「日本語で受験する」のか「英語で受験して英語の教育を受ける」のか、といったことは家庭の方針で決めておき、それも定期的に見直す必要があります。
子どもの英語力を底上げする必要がある場合は、スカイプレッスン、家庭教師、英会話スクールでフォローをすることも考えましょう。オンライン英会話なら時間を有効に使えるうえ、ファミリープランで契約をすれば親も一緒に英語力を鍛えられる点はおすすめです。
また、ダンス、バレエ、音楽、スポーツなどを英語で教えてくれるクラスも増えていますので、子ども自身のやりたいことを英語で習わせるのも良いです。ただし、日本の学校に通いながら高い英語レベルで別のことを学ぶためには、子どもがこなすべき宿題やテストは倍になると覚悟しましょう。
子どもの体力や集中力には限界がありますので、勉強ばかりで欲求不満にならないよう、子どもがやりたいと思っていることや子ども自身のペースを尊重してあげることが、楽しく長続きさせる秘訣です。
家庭内で方針を明確にするには
まず明確にすべきことは「日本人として英語を武器に活躍して欲しい」のか、それとも「多少日本人の常識を知らなくても、英語圏の文化と言語で生きていって欲しい」のかということです。この方針の違いによって、子どもに必要な英語学習時間も全く異なってきます。
- 家庭で使う言語を決める
- 受験と教育に使う言語を決める
- 日本で日本語で進学するか、日本で英語で進学するか、海外で進学するかを決める
- 求める英語レベルを基準にスクールに求める条件を書き出す
といったことは最低限でもおこない、日本人として英語を武器にして欲しいレベルか、英語圏で生きていって欲しいレベルか、家庭内で方針を決めましょう。そのうえで、
- 情報集めは早い時期から徹底的に行う
- 体験入学や見学により共感できる雰囲気かを確かめる
- もし必要なら方針を変える
これらを子どもの成長とともに繰り返します。義務教育終了証を貰えるかどうかなど、子どもの人生に関わる大きな決断をいくつもしていくことになりますので、早い段階での徹底的な情報収集は絶対に欠かせません。
あらゆる意味で方向転換は柔軟に
小学校、中学校と学校での活動が増えるごとに、子どもの興味ややりたいことが変わることはよくあります。英語と他の習い事とがぶつかることもあり、体力も気力も時間も限られています。第二言語を習得することはもちろん武器になりますが、子どものやりたいことができないようでは本末転倒です。
子どもの英語力、家庭を取り巻く状況は時間と共にどんどん変わっていきます。周囲の声に簡単に流されてはいけませんが、理想の方針に固執し過ぎたり、古い情報を信じ過ぎたりすることも良くありません。
英語で子どものやりたいことをさせたり、様々な方法を駆使して英語や母国語を補うなど、できる限り工夫をするようにしましょう。条件が良くなるスクールを見つけてスクールを変える、情報収集から別の良い方法が見つかれば試してみるといった方向転換も、恐れず柔軟に行いたいものです。
今回のまとめ
今回は「英語イマージョン教育の問題点」や「デメリット」、またイマージョン教育を受ける子どもたちを親はどうサポートすれば良いかについてご紹介してきました。小学校から先のイマージョン教育では心配ごとは尽きませんが、早めの方針決定プラス徹底的な情報収集で柔軟に乗り切ることが大事でしたね。
まだ日本でイマージョン教育を受けて育った大人はほとんどいませんが、これから十年先には、英語の方が得意という若者が増えてくるかも知れません。今はマイノリティで問題に思えることも、将来的には何でもないようなことになっている可能性だってあります。
イマージョン教育を受けさせると決める以上は、その時々で子どもと家庭に必要なものを見極めていただき、柔軟に選んでいった決断の先に『最良の道』が開けることを願っています。