今回は、専門分野について英語で研究論文を書きたい方のために「英語論文の書き方」をご紹介します。
英語の研究論文作成には、日本語の研究論文作成とは違ったルールや構成方法があります。それらのルールや構成の仕方を知っておくことは、良い英語論文を書く上では欠かせないことでしょう。
ここでは主に、英語の研究論文作成で重要となる《研究デザイン》《ルール》《構成》について解説します。
Research Design1. 研究デザイン
研究のデザインは研究論文を書く際にやらなければならない大切なことです。
さらに質の高い研究論文を作成するためには、ロジカル・シンキング(論理的思考)を用いながら、テーマ、リサーチ課題、検証方法などの調査内容をデザインする必要があります。どのような形で調査を進めていくかあらかじめ整理してから書いていきましょう。
通常は研究企画書 (Research Proposal) を事前作成し、研究デザインを明確にしておきます。研究企画書では「検証結果」や「分析結果」を事前に知ることはできないので、研究のテーマ、リサーチ課題、先行研究、検証方法までを明記したものとなります。
Deciding on a theme1-1. テーマを決める
第一に、テーマを決めなければ研究は始まりません。
研究テーマを見つける際には、研究者本人の興味関心のある事柄が出発点になることが主でしょう。自分の経験から関心を得た事、他の研究者が書いた論文や本を読んで興味を抱いた問題などから、自分が情熱を持って研究できそうなトピックを探してみてください。
Considering a research question1-2. リサーチクエスチョンを考える
トピックが見つかったら、リサーチクエスチョンを考えます。リサーチクエスチョンとは研究のコアとなる「問い」です。このリサーチクエスチョンに答えることが論文全体の目的となります。
リサーチクエスチョンを考えるときに注意することを簡単にまとめると以下の3つです。
(1)その「問い」について「誰が, 何を, いつ, どこで, なぜ, どのように」を明らかにした上で答えを導き出せるか
(2)その「問い」に独創性があるか
(3)その「問い」に対する答えは、重要性を持っているか
◆リサーチクエスチョンの例1
- How does the education level of the parents affect childhood obesity rate in the United States?
- アメリカ合衆国において、親の教育のレベルは子供の肥満率にどのように影響を与えるか?
◆リサーチクエスチョンの例2
- What is the association between 9/11 and future plans of high school seniors in the United States?
- アメリカ合衆国において、9・11と高校生の将来計画はどのように関連しているか?
Compiling a literature review1-3. 文献レビューをまとめる
文献レビュー (Literature Review) とは、主にテーマに関係する先行研究論文や既存の著作物などを自分の評価を交えてまとめたものです。
文献レビューを書くには、テーマに関連したたくさんの先行研究論文や書籍を読むことになります。これは、テーマに関する多くの情報を収集して理解を深めることにも繋がります。そして、後述する「研究タイプ」と「検証方法」を考える材料にもなります。
なお、文献レビューで重要なことは、ただ他者の論説を羅列するだけではなく、その論説に対する自分自信の評価を組み込むことです。このことはしっかりと覚えておきましょう。
Considering a type of research1-4. 研究のタイプを考える
次に、研究のタイプを考えます。リサーチクエスチョンが決まれば、それに合った研究タイプを考えることが出来るでしょう。よく見られるタイプを例に挙げると、実験的研究、ケーススタディー、比較調査、横断研究などです。以下に、これら四つのタイプの特徴を簡単にまとめてみました。
この四つのタイプ以外にも研究タイプは存在します。さらに、研究論文のレベルが高くなると、タイプ分けは細かく複雑になっていきます。自分のリサーチクエスチョンに合ったタイプを見つけましょう。
Quantitative Analysis and Qualitative Research1-5. 定量分析・定性的研究
英語研究論文のメソッドとして、定量分析 (Quantitative Analysis) と定性的研究 (Qualitative Research) があります。こちらも研究デザインのタイプですが、前述した「研究タイプ」とは少し違って、分類の基準は「どのような形のデータを扱うか」になります。
定量分析と定性的研究をどう使い分けて研究を進めるかが計画できれば、前述した研究タイプと掛け合わせて研究デザインがかなり明確になります。以下、定量分析と定性的研究の特徴を表にまとめています。
Considering verification method and methodology1-6. 検証方法・方法論を考える
ここまで決まれば、検証方法も具体的になってくるのではないでしょうか。具体的になっているべきことは、どのようなデータをどのような量、どのような形で収集し、どのような方法で分析するかということです。
例えば、アンケートを使ってデータを集める場合に、いつ/どのような人から/何人から/いくつのアンケートを取るのか明確にします。
そして、得たデータを分析するための方法論 (Methodology) を明確にし、自分自身でそれをよく理解していることが大切です。方法論は、同じ分野の先行研究で提唱された方法、視点、セオリーなどを自分の研究に活用することが主です。
やはり、自分の研究分野の先行研究論文をたくさん読んでおくことは、とても重要になります。文献レビュー (Literature Review) だけではなく、研究デザイン全般に生きてくるからです。
Rules2. 論文作成のルール
英語研究論文を書くにあたって、守らなければいけないルールがいくつかあります。これを知っていないと、正式な研究論文として認められないことがあるので注意してください。
Plagiarism2-1. 盗作
最初に知ってくべきルールは、盗作 (Plagiarism) に関するルールです。
研究論文を書いていく中で、先行研究論文や既存の書籍、ニュース記事、ドキュメンタリー作品、または動画などから情報を入手し、それを自分の論説の整合性や説得力を高めるために論文に組み込んでいきます。
その際に他人が書いた(もしくは発した)言葉をそのまま、あたかも自分の言葉であるかのように論文に書いてしまうと、それは盗作に値します。これをやってしまうと、大学の授業などでは減点か、盗作の割合がひどい場合には採点してもらえず単位取得資格を失います。
海外の多くの大学は、盗作を見抜くためのソフトウェアを使って厳しく学生の論文をチェックしています。
Citation2-2. 引用
そこで使用する方法が引用 (Citation)です。盗作は許されませんが、先行研究や書籍など信頼のおける情報を組み込むことは「説得力」と「信頼性」のある研究論文に欠かせません。正しい引用方法を知りましょう。
英語の引用のシステムにはいくつかの種類がありますが、よく使われる一番シンプルなスタイルはハーバードスタイルです。そして、ハーバードスタイルの引用方法にも何通りかのやり方があります。
2-2-1. 言葉の言い換えによる引用
一つは、意味は同じで言葉をかえる方法です。既存文献の文章の意味を汲み取り、自分の言葉で表現します。
◆参考文献の元文
- The media’s tendency to feature episodic stories that make it difficult to see beyond the woes of one individual group.
- 報道を一個人の悲劇としてしか見せないようにする挿話的報道を盛んに行うメディアの傾向。
◆言いかえをした文
- Media tends to feature episodic news which often makes it difficult to see beyond the problem of a single group of people (Benjamin. 2000).
- メディアは挿話的ニュースを盛んに報道する傾向がある。挿話的ニュースは、しばしばニュースを一つのグループの人間だけの問題としてしか見せない。(ベンジャミン. 2000)
[重要!] このように自分の言葉で言いかえた後にも、この論説が他人の提唱したものであることを示すため、カッコ () 内に著者名と論文発表の西暦を記入することは必須です。
2-2-2. ~が提唱という形での引用
二つ目のやり方は、文章の言いかえをした上で、さらに「〜が提唱した」や「〜の説によると」などの説明を文中に入れる方法です。こちらの場合もカッコ () が必要ですが、この場合は文中に著者の名前が入るため、カッコ内は西暦だけで大丈夫です。
- Benjamin advocated that media tends to feature episodic news which often makes it difficult to see beyond the problem of a single group of people (2000).
- ベンジャミンは「メディアは挿話的ニュースを盛んに報道する傾向がある。挿話的ニュースは、しばしばニュースを一つのグループの人間だけの問題としてしか見せない」と提唱した。(2000)
2-2-3. 記載箇所を入れた直接引用
もう一つの方法は、直接引用 (Direct Quotation) です。
先行研究の著者の言葉を直接引用することもできますが、この場合にはクオテーションマークで文章を囲い、カッコ内にその文章の文献中の箇所をページ数で明記する必要があります。
- Benjamin (2000) advocated, “The media’s tendency to feature episodic stories that make it difficult to see beyond the woes of one individual group” (p. 4).
- ベンジャミン(2000)は、「報道を一個人の悲劇としてしか見せないようにする挿話的報道を盛んに行うメディアの傾向」(4ページ)を提唱した。
Structure3. 英語論文の構成
研究デザインが考えられ、論文の基本ルールが分かったら、構成を組み立てて内容を書いていきましょう。
英語研究論文の構成としてよくあるのが、
- Abstract
要旨 - Introduction
イントロダクション - Research Qustion
リサーチクエスチョン - Literature Review
文献レビュー - Method/Design
メソッド・デザイン - Result
結果 - Analysis
分析 - Conclusion
結論 - Reference/Bibliography
参考文献
という構成です。これはあくまでも論文の構成なので、各章のタイトルを上の通りにする必要はありません。タイトルは自由ですが、上の構成に沿って書き進め、研究論文の整合性を保つようにします。
それでは、順番に要点を見ていきましょう。
Abstract3-1. 要旨
研究論文の章立ての順番として、最初に来るのは要旨 (Abstract) です。
しかし、要旨とは論文の内容で最も重要なポイントを読者に伝えるために書くところです。ですので、要旨を書くのは研究論文の内容をすべてまとめてからでもいいと思います。
とにかく、要旨で書くことは、研究論文の主題、重要性、独創性、結果、意義を短くまとめたものです。
Introduction3-2. イントロダクション
次に来るのは、イントロダクション (Introduction) です。
イントロダクションは主に研究論文が扱う問題が何なのかを明らかにし、その問題の背景と、その問題を扱うことの重要性、社会との関係性を学問的な理解とともに論じます。
データや先行研究の論説なども用いながら、客観的に問題を論じていきましょう。
Research Question3-3. リサーチクエスチョン
次に前述したリサーチクエスチョン (Research Question) を明示します。
イントロダクションで説明した問題から発生するリサーチクエスチョンなので、イントロダクションの章中にリサーチクエスチョンの内容を少し組み込んでおくこともできます。
イントロダクションとリサーチクエスチョンの章を分けて章立てするか、リサーチクエスチョンを独立させて章立てするかはみなさんの裁量です。ただし、その研究論文のリサーチクエスチョンが何なのかはこの段階で明確にしておきましょう。
Literature Review3-4. 文献レビュー
前述した文献レビュー (Literature Review) はここで展開させます。
ここでは、他者の論説やデータが主なので、前述した引用 (Citation) が大活躍します。引用のルールを守りながら、他者の論説と論説に対する自分の評価を書いていきましょう。
Method/Design3-5. メソッド・デザイン
ここで、前述した研究タイプ、検証方法、結果分析の方法論(定量分析と定性的研究)の内容を詳しく書いていきます。実行可能であることを読者に伝えることが目的ですので、具体的であればあるほど良いです。
Result3-6. 結果
次に、調査で集めたデータを公開します。
定量分析を用いて集めた数値的なデータは、グラフなどを用いて結果を記載すると分かりやすいでしょう。
定性的研究を用いて集めた、インタビューや観察などのデータは文章で表します。インタビューの内容全てをそのまま貼り付けるのではなく、論述に必要な箇所を摘出して掲載するか、引用のような形で掲載します。
Analysis3-7. 分析
次に、調査から得られたデータを分析します。
分析は、前述した方法論を用いて行います。方法論は前の段落で具体的に提示されているはずなので、それに沿って筋の通った分析結果を論述しましょう。
新しい所見が得られた場合は、所見 (Findings) の段落を作り、独立した章で述べても良いでしょう。
Conclusion3-8. 結論
研究論文の最後は必ず結論 (Conclusion) で締めます。
ここでは新しい情報は述べません。これまで論述してきた内容の重要な部分をまとめ、自分がこの研究論文で最終的に言いたいこと (自分の理論) を書きます。
Reference/Bibliography3-9. 参考文献
研究論文の内容を書き終えたら、参考文献 (Reference/Bibliography) を付けなければいけません。引用に使った文献全てをここにリストアップします。
英語論文の参考文献の記載方式にはいくつか種類がありますが、前述の引用で使用したスタイルがハーバードスタイルなので、参考文献もハーバードスタイルで統一する必要があります。
◆参考文献がオンラインで読める論文の場合
- Benjamin. Diane (2007) A Frame Works Institute Frame Byte Episodic vs. Thematic Stories. Frame Work Institute. Online. Available from URL-link to PDF file (starting https:// or just www) [Accessed 14th January 2018]
- [順番] 著者名 (名字が先に来る)、出版された年、論文のタイトル、出版元名、媒体、サイトURL、[アクセスした日にち]
◆参考文献が書籍の場合
- Pears, R. & Shields, G. (2016) Cite them right: the essential referencing guide. Palgrave study skills. 10th ed. Basingstoke, Palgrave Macmillan.
- [順番] 著者名(名字が先)、出版された年、書籍のタイトル、エディション番号、出版場所、出版社名
◆参考文献が専門機関の記事の場合
- Department of Health. (2009) Living well with dementia: a national dementia strategy. Available from: URL-link to the article starting https:// or just www [Accessed 4th June 2015].
- [順番] 専門機関名、公開の年、記事のタイトル、サイトURL、[アクセスした日にち]
上記の順番で情報を記入していきます。
この他にも、映像作品や新聞記事からの引用など、参考文献の種類によって記載するべき情報は異なります。とても種類が多いので、必要な時はハーバード式の参考文献の書き方専用のサイトを確認してください。
ハーバード式の参考文献を種類に合わせて自動で作成してくれるウェブサイトもあります。
英語論文の書き方まとめ
英語での学術研究論文の書き方を紹介しました。
学士、修士、博士とレベルが上がっていくとともに、研究論文の書き方もどんどん複雑になってきます。また書き手によっては構成の順番が前後する場合もあります。ですが、まずは基本の形をしっかり理解することが重要になるでしょう。
これから英語で論文を書かれる皆さんも、今回ご紹介した思考法と構成を書き方の参考とし、ご自身の研究を効率的に論述できるストラクチャーを見つけてみてください。