皆さんも「この企画案はブラッシュアップする必要がある」や「もう少しブラッシュアップしないと」という表現を聞いたことがあると思います。この「ブラッシュアップ」はどういう意味で、英語ではどう表現すれば良いのでしょうか?
カタカナ用語が多く使われるビジネスの世界では、何かの案や製品などに対して「更に良いものにする」や「磨きをかける」という意味を「ブラッシュアップ」という言葉で比喩的に表します。英語で書くならば “brush up” となり、これは実際に英語辞書にも載っている表現です。
ところが、英語でも存在している表現だからといって “brush up” を日本語と同じようにそのまま使って「ブラッシュアップする(磨きをかける)」の意味になるかというと、必ずしもそうではありません。
- ○ Before my trip to England, I want to brush up (on) my English.
- イングランドへの旅行の前に、英語をブラッシュアップしたいです。
- × We need to brush up our business ideas a little bit more.
- 私たちはビジネスアイデアをもう少しブラッシュアップする必要があります。
スムーズなコミュニケーションが成功の鍵の一つとなるビジネスにおいては、言葉の意味が通じなかったり、誤解を招いたりすることは避けたいものです。こんな事態を防ぐためにも、今回は「ブラッシュアップする(磨きをかける)」を英語で正しく上手に伝える方法をご紹介します。
「ブラッシュアップ」と “brush up”英語で言う “brush up” の意味
まず、日本語の「ブラッシュアップ」と、英語圏で使われる “brush up” の意味の違いを理解しましょう。
日本語での「ブラッシュアップ」は、草案段階にあるアイデアや、まだまだ改善の余地がある製品やサービスなどに対しても「磨きをかけて改善する」といった意味で使われますよね。
一方、英語圏で使われる “brush up” には、次のような複数の意味があります。
英語の “brush up” の意味①「身綺麗にする・身繕いをする」
はじめに “brush” が「ブラシ」を意味するように、“brush up” には「汚れを落として身綺麗にする」や「身繕いをする」という意味があります。日本語の「ブラッシュアップ」とは随分意味が違いますね。
“wash and brush-up” の組み合わせで使われることが多く、たくさん遊んで汚れたときや朝起きたとき、スポーツや長旅の後などに使うイメージです。親が子供に使ったり、動物やペットにも使ったりもします。
- Go and have a wash and brush-up, dinner will be ready in ten minutes.
- 汚れを落として綺麗にしてきなさい、晩御飯はあと10分すれば用意できてるから。
- Look, ducks are enjoying a wash and brush-up.
- 見てごらん、カモたちが水浴びして身繕いしてる。
名詞として使うときは、基本的に “brush-up” のようにハイフンを付けるか “brushup” としましょう。
英語の “brush up” の意味②「見直す・整理する」
知識やスキルなどを改めて見直したり整理したりする際にも “brush up” が使われます。知っているつもりのことを再確認することで理解が鮮明になり、知識やスキルが以前より深まるという意味合いです。
- I want to take some classes to brush up (on) my programming skills.
- プログラミングのスキルを復習するために授業を受けたい。
- On this occasion, it is important to brush up on safety tips.
- これを機に、安全マニュアルの理解を深めることは大切です。
この「見直す・整理する」の “brush up” を「現在の状態よりも良くする」という意味に捉えれば、日本語感覚の「ブラッシュアップする」に比較的近くなると言えます。
とはいえ、英語で「企画案のブラッシュアップ」のような文脈で使われることはありません。日本語の場合は「製品」「デザイン」「プレゼン資料」など何でも「ブラッシュアップする」と言いますが、英語でそのまま使ってしまうと意味が通じないので注意しましょう。
英語の “brush up” の意味③「(忘れかけていたことを)取り戻す」
ホコリや汚れを取り除く “brush”(ブラシ)は、過去の記憶や忘れたかけていた知識などを「蘇らせるために使う道具」の比喩としても使われます。
例えば、長い間、屋根裏部屋に放置されていた古く錆びついたホコリまみれのランプがあったとしましょう。このランプを再び使うためには、まず表面にこびりついたサビや汚れを落とす必要があります。そしてここで登場するのが掃除道具である “brush”(ブラシ)です。
つまり「屋根裏部屋」が「人間の脳」、「放置されていたランプ」が「記憶や知識」だと考えると、“brush up” することで「忘れかけていたことを取り戻す」や「感覚を蘇らせる」という意味になります。
- I need to brush up on my Spanish before going to Cuba.
- キューバに行く前にスペイン語の感覚を取り戻す必要がある。
- She should brush up on her driving because she hasn’t drove for a while.
- 最後に運転してから大分時間が経っているので、彼女はその感覚を取り戻すべきだ。
意味②の「見直す・整理する」と似ていますが、意味③では「以前は精通していたが今は忘れかけている」の意味合いになります。以前の感覚や能力を取り戻すことが目的のため、意味②のような「改善」や「上達」といった意味は含みません。
英語圏で使われる “brush up” は、この意味③の使い方が最も一般的だと言えます。言語や専門知識など、習得してから時間が経つと感覚が鈍ってしまいがちな事柄に良く使われます。
英語では類語に言い換えて使おう!ブラッシュアップの英語表現
英語圏で使われる “brush up” が日本語感覚の「ブラッシュアップする(磨きをかける・改善する)」とは少し異なることが分かったと思います。
では、誤解や混乱を招くことなく英語で「ブラッシュアップする(磨きをかける・改善する)」と表現したいときはどう言えばいいのでしょうか?
避けたいのは、日本語感覚で使う言葉を無理に英訳しようとし、無駄な労力と時間をかけてしまうことです。国際コミュニケーションで大切なのは、シンプルな英語に言い替えて内容をしっかり伝えることです。
ブラッシュアップの言い換え表現①improve(改善する)
暫定の企画案などを「今ある状態から更に良いものにする」という意味で「ブラッシュアップ」と言いたい、そんなときは「改善する」という意味の “improve” を使うのが確実です。
- We need to improve our products to satisfy our customers.
- 顧客を満足させるために我々の製品はブラッシュアップ(改善)が必要だ。
- Here is the draft although it still needs to be improved.
- まだまだブラッシュアップが必要ですが、こちらが草案です。
ブラッシュアップの言い換え表現②polish (up)(磨きをかける)
金属や靴などに光沢を持たせるために使う研磨剤を “polish” と言います。英語圏では、モノに限らず製品やアイデアを磨き上げる意味でもこの “polish” が使われます。表面の汚れを落として元の姿を取り戻すという意味合いが強い “brush up” に比べ「今ある状態から更にキレイにする」ニュアンスが含まれます。
- I will explain to you how I have polished my speaking skills.
- 私がどうやって自分の話術に磨きをかけたかを説明します。
- Let’s polish up the outline of our new service.
- 新しいサービスの概要をブラッシュアップしましょう。
また、“polish” は動詞としてだけでなく、名詞の “polishing” は「ブラッシュアップ」として、形容詞の ”polished” は「ブラッシュアップされた」として、文脈に合わせて様々な品詞を取れます。
- I think that this plan needs some polishing.
- この案はブラッシュアップする必要があると思います。
- A polished Business Plan stands out.
- しっかりブラッシュアップされたビジネスプランは際立つ。
ブラッシュアップの言い換え表現③refine(精製・精錬する)
余分な要素や不純物を取り除いて「精製・精錬する」を意味する “refine” も、物事を改善したり洗練させる場合に使われる動詞です。次のように日本語の「ブラッシュアップ」を言い替えられます。
- We should refine the plan before submitting it.
- 提出する前にプランのブラッシュアップが必要だ。
- They had to spend years to refine the service.
- サービスの洗練化には多くの年月を要した。
ブラッシュアップの言い換え表現④make it better(より良いものにする)
新たなボキャブラリーを覚えなくても、知っている基本的な英単語を組み合わせることで「磨きをかける」は表現できます。シンプルに「(ある状態に)させる」という意味を持つ “make” と「より良い」を意味する “better” を使い、“make it better” と表現しても十分「ブラッシュアップする」の意味として通じます。
- My boss told me that I could still make my presentation better.
- 私のプレゼンはまだブラッシュアップする余地があると上司に言われた。
- The purpose of this meeting is to make our service even better.
- この会議の目的は我々のサービスを更にブラッシュアップ(改善)することです。
ネイティブスピーカーの英語をよく聞いてみると、彼らが日常会話で使う言葉の多くは、私たちにも馴染みのある基本的な単語だと気付きます。もちろん、プロフェッショナルな場面では専門用語やフォーマルな単語の使用が推奨されることもありますが、やはり肝腎なのは要件をしっかり伝えることです。
“make it better” を具体的にして “make it more appealing” や “make it more sophisticated” と言っても良いでしょう。
ビジネスで「カタカナ=英語」はダメ!ブラッシュアップは言い換えよう
今回は、日本語感覚で言う「ブラッシュアップ」と英語圏で使われる “brush up” との意味の違い、そして「磨きをかける」を意味する実際の英語表現を例文を挙げながら説明してきました。
ご紹介した「ブラッシュアップする」の英語での適切な言い換え表現は
- improve
- polish
- refine
- make it better
の4つです。
日本語に登場するカタカナ用語には、そのまま英語にしても意味が上手く通じないものがたくさんあります。まずは「カタカナ=英語」という思い込みを取り払い、伝えたいことをシンプルに伝えることを心がけつつ、英語でのコミュニケーション力に「さらなる磨き」をかけていきましょう!